9Principles~4.安全よりリスク, 5.従うより不服従, 6.理論より実践~ ということで、前回に引き続き、2017年7月に発売された、伊藤穰一さんの「9Principles」をご紹介します。
「9Principles」は、激変するこれからの時代を生き抜くための助けとなる9つの原理を読者に提供することを目的に書かれています。
詳細は前回記事をご覧ください。
その原理とは以下の通りです。
- 権威より創発
- プッシュよりプル
- 地図よりコンパス
- 安全よりリスク
- 従うより不服従
- 理論より実践
- 能力より多様性
- 強さより回復力
- モノよりシステム
前回の記事では、こちらの9つの原理の中から、最初の3つをご紹介しました。
前回記事についてはこちらからどうぞ。
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9Principles~1.権威より創発, 2.プッシュよりプル, 3.地図よりコンパス
さらに個人的に印象に残った冒頭のIntroductionについても軽くご紹介しました。
今回はその続きで、4~6つ目の原理についてご紹介します。
9Principles~4.安全よりリスク, 5.従うより不服従, 6.理論より実践~
4.安全よりリスク
4つ目の原理は「安全よりリスク」です。
これはとても分かりやすい原理であると思います。
本書では、この原理を説明する例として、睡眠パターンを計測するリストバンドとそれを可能にするiPhoneアプリを開発したジュリア・フーさんとリーアム・ケイシーさんを紹介しています。
フーさんは、リストバンドを使って睡眠パターンを計測し、朝の最適なタイミングで起こしてくれるiPhoneアプリを作ろうと思い立ちます。
そのアイデアは友人やベンチャー資本家に気に入られました。
しかし、リストバンドのようなハードウェア製品を利益が出るまで売るとなると困難です。
また、集めた資金ではプロトタイプの開発には十分でも、量産するには不十分な資金量でした。
そこで出会ったのがケイシーさんです。
ケイシーさんは資本提供などは一切行いませんでしたが、その代わりに大きな武器を提供します。
それは、ケイシーさんが中国に持つサプライチェーンです。
ケイシーさんは西側の企業と中国の工場のマッチングをする商社を立ち上げていました。
両者が結束して、リストバンドのサプライチェーンはすぐに整います。
製造や設計、受発注まですべてをデータベースで管理し、必要な時に必要な分をアウトソースできるようになります。
これにより必要に応じて供給量を自由にコントロールすることができるようになりました。
これは従来の方法とは全く異なる考え方です。
従来のやり方では、製品を生産するとなると、工場を所有する必要がありました。
もちろんそこに必要となる材料や人的資源の確保も必要です。
そのため多額の資金が必要になりました。
しかし今日の経済システムでは、製品を生産するために生産設備を所有する必要はありません。
必要な分だけを必要な時にだけアウトソースして、代わりに生産してもらうことが可能なのです。
これは新しい製品を作るためのハードルを格段に下げます。
このデータベースと、グローバル経済をいじる技能のおかげで、ケイシーはアウトソーシングの論理的な帰結にぼくたちを連れてくる。「もう何も所有する必要はないんだ。工場もいらない、倉庫もいらない、オフィスさえいらないんだ」。言い換えると、ケイシーは企業がアトムをオフショアに移動できるようにする。残るのは何だろう?「アイデアと、それをマーケットする力だ。それだけ」。ヴァンダ―ビルトやフォードや、果てはジョブズが作り出したビジネスとは程遠い代物だ。
つまり、現代では、アイデアとそれをマーケットする力さえあれば、それを実行することはそこまで難しくはないということです。
アウトソースすることで、コストはさほどかからないし、何も所有する必要もないのでリスクも小さくすみます。
要するに、現代の社会では、リスクを受け入れやすい状況になっているということです。
製品を市場にもたらす費用――あるいはもっと単純にアイデアをたくさんの聴衆に伝える費用――のために組織が破産しかねない場合は、リスクより安全性を重視するのは筋が通っている。でもこれは、かなり劇的な形で、もはや成り立たない。インターネットはそれどころか、この力学を逆転させた。アイデアや、ある製品のざっとした設計図ですら、安全にしておくよりも本来のビットの形で世界をうろつかせるほうが安上がりなのだ。
つまり新しいルールは、リスクを受け入れろということだ。
これまでは新たな挑戦をするためのリスクが大きかったため、安全性が重視されることが理にかなっていましたが、リスクが大きく下がった現代においては、リスクを受け入れて挑戦することが必要ということです。
イノベーションを起こすために必要なコストが劇的に下がった現代では非常に理にかなった原理であると思います。
理論より実践を優先するのと同じで、安全よりリスク重視の原理は無責任に思えるかもしれないけど、それを可能にしている現代の低コストイノベーションの可能性をすべて活用するにはこれが不可欠だ。
そしてこの「安全よりリスク」という原理は、リスクを無視しろということではありません。
むしろ、リスクが従来よりも小さくなっているので、それに応じてリスクに対する考え方も変えるということです。
安全よりもリスクを取るのは、リスクに目を閉ざすということじゃない。単に、イノベーションの費用が下がるにつれて、リスクの性質が変わるということだ。
この原理の典型的な例として、ソフトウェア企業は、従来のリスク逃避的なアプローチから、アジャイル型で承諾不要のアプローチをとって成功してきました。
グーグルの共同創設者であるラリー・ペイジさんは、多くの企業が劣化する傾向にあることについて次のように発言しています。
「[ほとんどの]企業がだんだん劣化するのは[かれらが]以前にやったのとだいたい同じことを、マイナーチェンジしただけで続けようとするからだ。絶対に失敗しないとわかっていることをやりたがるのは自然なことだ。でも漸進的な改善は、やがて陳腐化する。これは特に、確実に前進的でない変化が起こるとわかっている技術分野ではそうだ。」
またリスクを取るということは、イノベーションを生み出すことにもつながります。
従業員にリスク追及を許す組織は、大きな創造性を奨励するものだ。
このように、従来から、リスクに対する考え方や、イノベーションを起こすために必要となるコストが劇的に減少したことで、リスクに対する考え方を変え、リスクを取りながら行動していくことが、これからの時代では必要になると伊藤さんは主張しています。
ということで、4つ目の原理は「安全よりリスク」でした。
5.従うより不服従
5つ目の原理は「従うより不服従」です。
これも何となくイメージはつくと思います。
本書では、アメリカの大手化学メーカーのデュポン社がナイロンを開発した経緯を例に挙げています。
1926年に当時のデュポン社の化学部長は、純粋科学または基礎科学研究に資金を出すように説得しました。
これは当時の一般的な考えからは、かけ離れた発言でした。
当時の研究といえば、すぐにビジネスにつながることを前提とした研究が一般的で、いつ成果が出るかもわからない基礎研究にお金を出す会社はほとんどありませんでした。
そんな時にデュポン社に入社したのが、ウォーレス・ヒューム・カロザースさんです。
カロザースさんは、ポリマーに注目して研究を始めます。
しかし1930年に化学部長が代わり、新しい部長は、「商業的に価値のある研究のみにしか資金は出さない」と考えていました。
いわゆる当時の一般的な考えを持つ人です。
新しい部長は合成繊維の研究に注力するように指示を出しました。
しかしながら、カロザースさんは部長の指示を聞きつつも、自身の研究を貫き、ついには新しい人口繊維を開発して特許を出願してしまいます。
この合成繊維はのちにナイロンと呼ばれアメリカ国内から世界中に急速に普及しました。
しかし、特許出願してから数週間後、カロザースさんは自殺して自らの生涯を終えてしまいます。
当時の新しい部長との間に相当なストレスがあったのでしょうか。
悲しい結末ですが、ここでカロザースさんが貫いたことは、自らやり始めた研究を周りに何を言われようとやり続け、特許出願という結果に結びつけたということです。
これはまさに不服従です。
不服従は、上の立場からすると少し不安に感じますが、これは特に問題解決など創造力が必要な局面において大きな結果をもたらすことがあります。
不服従、特に問題解決のような極度に重要な領域での不服従は、しばしばルール準拠より大きな見返りをもたらす。イノベーションには創造性が必要で、創造性は――善意の(そしてあまり善意ではない)管理職たちの大いなるフラストレーションの源ではあるけれど――しばしば制約からの自由を必要とする。
また、不服従が創造力を促進するということは、「科学革命の構造」でも示されています。
言い換えると、偉大な科学的進歩に関するルールは、進歩のためにはルールを破らねばならないということだ。言われた通りにしているだけでノーベル賞を受賞できた人はいないし、誰かの設計図にしたがっていただけでノーベル賞をもらえた人もいない。
当然ながら、新しいことを成し遂げる人は既存のルールの外に足を踏み込んだ人たちのみです。
今までのルール通りにしていては偉業は成し遂げられません。(結果は見えていますから・・・)
本書では、このナイロン開発の経緯の例のほかに、3M社が開発したマスキングテープやポストイットが挙げられています。
どちらの例にしても、開発者に共通することは、上司の言うことはお構いなしに、自分で自由に研究を行っていたということです。
一方、現代社会ではあらゆる分野において、ルールに従って行動することが求められます。
このような環境が、みんなが本来持つ創造性を失わせていると本書は主張しています。
現代の会社、サイロ状に細分化された仕事、教育システムさえも、興味に基づく学習や探求を抑えがちで、生徒たちにルールに従って質問するなと教えたがる。だからこそ多くの人は歳を取ると昔ほどクリエイティブでなくなったように感じるのだ。
不服従とは、本来とてもコントロールしづらいものです。
したがって、現代社会の規制やルールは、秩序に向かう傾向があり、混沌を避けようとします。
これにより不服従を抑えることはできますが、その代償として、創造性などの生産的な要素も同時に抑えてしまうことになります。
社会と制度は一般に、秩序に向かい混沌を避けようとする。その過程で、不服従は抑えられる。でもそれは創造性、柔軟性、生産的な変化も抑えてしまいかねず、長期的には社会の健全性と持続可能性も潰しかねない。これは学術界から企業、政府、ぼくたちのコミュニティまですべてに当てはまる。
しかし、前述の通り、多くのイノベーションや創造性は、ルールや規制に縛られない自由な環境で生まれやすくなります。
新しいことを成し遂げた人に既存のルール通りにしてきた人はいません。
かならずこれまでの常識やルールなどの固定概念の外に手を出すことが必要になります。
「言われた通りにしているだけでノーベル賞を受賞できた人はいない」。さらにアメリカの公民権運動は市民不服従なくしては起こらなかったことも続けて説明した。インドはガンディーやその支持者たちによる、非暴力でもしっかりした不服従がなければ独立できなかった。このニューイングランド地方で祝われているボストン茶会事件も、かなりの不服従だ。
このように、予測不可能なこれからの時代に対応していくためには、既存のルールに縛られず、柔軟な発想で新しいことに挑戦したり、自らの意思で行動できるようにすることが大切になります。
ということで、5つ目の原理は「従うより不服従」でした。
6.理論より実践
6つ目の原理は、「理論より実践」です。
本書でこの章は、印象的な引用で始まっています。
理論的には理論と実践のあいだには何の違いもない。実践では、この二つは違う。
非常に当たり前のことを言っているのですが、面白いですよね。
そしてこの引用の後に、この原理を説明するためにニューヨークにある市公立学校を例に挙げています。
この学校では、生徒は普通の授業は受けません。
科学の授業は「物事の仕組み」について学ぶ際に学びます。
国語は「コード世界」と「存在、空間、場所」の中で教えられます。
さらにはこの学校にはカリキュラムは存在せず、また、「単位」もありません。
ここの生徒のカリキュラムは見当たらない。「健全性」で見つかる。また、生徒たちはこのカリキュラムを、たとえば岩や土地形態をめぐる「単位」に区切ったりはしない。むしろ「探求」や「使命」があって、それが最後に「ボスレベル」へと続く。
ゲーム好きの私にはとてもわかりやすい表現ですが、ゲームをやらない方にもわかりやすいように説明します。
つまり、この学校では、学ぶ内容を単位や授業で区切ったりするのではなく、一つの大きな枠の中ですべて学ぶのです。
わかりやすいところでいうと科学です。
通常ですと、授業で先生のレクチャーを受けて学びます。
しかし、この学校では、まず物事の仕組みについて学び、その過程でその仕組みを理解するために必要な科学的な知識を学ぶのです。
つまり、理論からではなく、実践から入るのです。
すでに存在するものの仕組みを知ることで、その背景にどのような技術や原理があるのかを学ぶのです。
この方が理解が深まるし、何より好奇心を持って学ぶことができます。
そして、この理論よりも実践を重視することがこれからの時代では特に重要であると本章では主張しています。
その背景として、現代は、過去よりも実践することが容易になったということと、変化の激しいこれからの時代では、実践よりも待っていることのほうがコストがかかると認識するようになるためです。
理論より実践ということは、加速する未来では変化が新しい常態となるので、実際にやって即興するのに比べ、待って計画するほうが高い費用がかかるということを認識するということだ。
従来の常識では、特に資本の投資を必要とするものには、失敗を避けるため計画を立てるということは非常に大切な作業でした。
しかし、現代のネットワーク時代には、主導的な立場にある企業は「失敗すること」を奨励しています。
「失敗すること」よりも「チャレンジすること」に重きを置いています。
もちろん、インフラなどの巨額の資本投資が必要なものに関しては計画を立てることは非常に重要ですが、ソフト開発やマーケティングなどの必要費用が少ないものに関しては、計画を立てるよりもまず実践してから結果をフィードバックして修正していくアジャイル型のアプローチの方が理にかなっています。
これは伝統的な商品開発のアプローチとは、全く逆になります。
この「理論より実践」という原理は、MITメディアラボでも重視されているそうです。
メディアラボでは、学生たちは仲間との日常会話にヒントを得てプロトタイプを作るのがごく一般的だ。多くの場合、アイデアからプロトタイプまでの時間は数時間であり、その最初の作り直しは同じ日に起こりうる。これができるのは、先進ファブリケーション手法やオープンソースソフトでイノベーションの費用があまりに下がり、何かについてあれこれ議論するより実際に試してみるほうが安上がりだからだ。
つまり従来とは異なり、実践に必要な資金があまりにも下がったため、考えてる暇があればとりあえず作ってみたほうが安上がりということです。
そしてこの実践を重視するアプローチ方法が、ベストプラクティスに近い方法を生み出すことにつながります。
この理論を効果的に実践している企業として、本書ではグーグル社を挙げています。
グーグル社は、時間の二割を好きなプロジェクトに向けていいとしているので有名だ。指揮命令型のマネジメントの観点からすれば、これはせいぜいが士気を高めるための高価な手法でしかない。でもグーグル社の観点からすれば、これは新しい製品アイデアを生み出すための安上がりな手法だ。そして実際、このプログラムからはたくさんのイノベーションが生まれ、やがてはグーグル社の収益に何千万ドルも貢献するようになっている。
つまりイノベーションにかかるコストが劇的に下がった今日では、理論や計画に時間をかけるよりもまず実践してプロトタイプを作り、それは改良していくアジャイル型のアプローチ手法が重要になっていくと本書は主張しています。
そして実践を重視するアプローチが、より多くのイノベーションへとつながるのです。
ということで、6つ目の原理は「理論より実践」でした。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、伊藤穰一さんの9 Principlesで紹介されている9つの原理から、4~6つ目の原理をご紹介しました。
次回は残り最後の3つの原理についてご紹介します。
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