9Principles~7.能力より多様性, 8.強さより回復力, 9.モノよりシステム~ とういうことで、今回「9 Princples」ご紹介の最終回となります。
前々回から2回にわたって、2017年7月に発売された、伊藤穰一さんの「9 Principles」をご紹介してきました。
「9 Principles」では、激変するこれからの時代を生き抜くために、助けとなる九つの原理を紹介しています。
そしてこれらの原理は、伊藤穰一さんが所長として率いるMITメディアラボでは当たり前のように実践されているものばかりだそうです。
その九つの原理がこちらになります。
- 権威より創発
- プッシュよりプル
- 地図よりコンパス
- 安全よりリスク
- 従うより不服従
- 理論より実践
- 能力より多様性
- 強さより回復力
- モノよりシステム
前々回の記事では、1~3つ目の原理をご紹介しました。
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9Principles~1.権威より創発, 2.プッシュよりプル, 3.地図よりコンパス
そして前回の記事では4~6つ目の原理についてご紹介しました。
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9Principles~4.安全よりリスク, 5.従うより不服従, 6.理論より実践~
最終回となる今回は、最後の7~9つ目の原理についてご紹介します。
9Principles~7.能力より多様性, 8.強さより回復力, 9.モノよりシステム~
7.能力より多様性
7つ目の原理は「能力より多様性」です。
最近はダイバーシティ(Diversity)ということばをよく耳にしますが、これがまさに多様性です。
本書では、この原理を説明するために、HIVに似たレトロウイルスの使う酵素の構造マッピングに成功するまでに至った経緯を例に挙げています。
この成功の裏側では、通常の研究プロセスではなかなか起こりえないことが起こっていました。
それは、この発見に貢献した科学者グループの中にビデオゲームプレーヤーの集合体であるグループが入っていたのです。
もちろん彼らは酵素に関する知識はありませんでした。
なぜこのようなことになったのかというと、研究者たちがこのグループに依頼したためです。
研究者たちには、酵素などに関する知識は豊富に持ってはいても、構造モデルをシミュレーションするスキルは持っていませんでした。
そこでそのスキルを持つビデオゲームプレーヤー集団に、酵素の中でたんぱく質がどう畳まれているのかを見きわめるように依頼したのです。
依頼を受けると、この集団に属する各プレーヤーは、すぐに課題に取り組みます。
プレーヤーには中学生も含まれ、科学者はいません。
これらプレーヤーは競い合って(そして協力して)課題の解決に努めます。
そして依頼から3週間後には課題を解決してしまいました。
そしてその後、その他の酵素の正確なモデルを創り出し続けます。
後にこの集団の共同創設者の一人が、これと似たようなゲーム(エテルナというそうです)を創り出しました。
エテルナでプレーヤーたちは合成RNAの設計図を創り出し、この設計図はのちにスタンフォード大学で合成されるに至りました。
この例で学ぶべきことは、ゲームプレーヤー集団が次々と課題を解決していくことができた要因です。
この集団はさまざまな人が所属しています。
年齢も職業も国籍も生い立ちもみなばらばらです。
このような多様性がすさまじい結果をもたらします。
これは既存の一般的な考え方を根本的に覆しました。
エテルナは資本主義の中心的な想定を過激な形で見直す必要性を示している。その想定は、労働は上意下達の指揮命令系統マネジメントで配分するのが最適だというものだ。エテルナはかわりに、これまでは過小評価されてきた属性――多様性――に頼る。実際、インターネット以前なら、これは実現が難しいと一般に思われていた。
本書では、多様性の可能性を示すもう一つの例として、イノセンティブ社を紹介しています。
イノセンティブ社は、製薬会社イーライリリー社によって創設されました。
この会社の最大の特徴は、多様化した知的思考力を顧客に提供する能力を元にビジネスモデルを構築していることです。
イノセンティブ社は、顧客から難解な課題をもらい、それをオンラインを掲示板に投稿します。
すると、その掲示板をのぞいている世界中のプロやアマチュアの科学者たちがその課題に挑むのです。
そして誰でも解決策を投稿でき、うまくいけば報酬(だいたい1万~4万ドル)を受け取れるという仕組みです。
最も興味深いことは、この会社に依頼された課題の実に85%が解決されているということです。
そしてその課題は常にすばらしいプロの科学者たちによって解決されているわけではありません。
ときには電気工学を専攻している大学1年生によって解決されることもあります。
そしてさらにハーバードビジネススクールから面白い研究結果が発表されています。
ハーバードビズネススクールの研究だと、成功した解決策と、その研究はカリーム・ラカニが「その分野からの距離」と呼ぶもののあいだには正の相関があるという。普通の言い方をすると、解決者がその問題におかれた分野になじみが薄ければ、それだけ解決の可能性が上がる。
これは従来の一般的な考えを完全に覆します。
従来では、困難か課題に直面したら、その分野に最も精通している人に取り組んでもらうように指示を出します。
そしてその人に解決できなけらば、同じくらいのバックグラウンドをもつほかの人に指示を出します。
しかし、似通った知識や経験を持つ人たちは、考え方に似通う部分があります。
したがって、新しく採用した人も前者と同じようなアプローチで解決しようと試みるため、結局解決できないことが多くあります。
しかし、全く異なるバックグラウンドを持つ人が同じ課題に取り組めば、それまでだれも思いつかなかったアイデアを思いつく可能性は十分にあります。
多様性の強みはここにあります。
同じ知識やバックグランウドを持つ人が集まっても似たようなアイデアしか出ませんが、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まればそれだけアイデアも多様化します。
出たアイデアがきっかけとなり、さらに新たなアイデアにつながることもあります。
この多様性の効果を意識した動きはさまざまな分野で広がりつつあります。
今後、多様性の重要度はますます高まり、企業や組織を成長させるためには欠かせない存在となっていくものと思われます。
ということで、7つ目の原理は「能力より多様性」でした。
8.強さより回復力
8つ目の原理は「強さより回復力」です。
これは少しイメージつきにくいですかね。
本質的には、4つ目の原理「安全よりリスク」にも通じる部分があります。
本書では、この原理を、伝統的な大企業とインターネット時代に成長したソフトウェア企業の違いから説明を始めています。
伝統的な大企業では強さを重視していると述べています。
伝統的に、大企業は樫の木のように、失敗に対して自分たちを強固にした。資源を積み上げて、階層型のマネジメント構造や厳格なプロセスや、カオスの力から守ってくれるはずの詳細な五ヵ年計画を導入した。言い換えると、かれらはリスクより安全を重視し、プルよりプッシュ、創発より権威、不服従よりルール従属、コンパスより地図、システムより物体を重視してきたということだ。
一方でインターネット時代に成長したソフトウェア企業は、これとは正反対の方針をとりました。
でもインターネット時代に成長したソフトウェア企業はちがったアプローチを採った。かれらの分野は実に新しくて急速に変わるので、先人たちの計算ずくのリスク忌避をしていたら、競争相手が前進する中で道の途中で動けなくなってしまったはずだ。おかげでかれらはしょっちゅう失敗した。――でもその初期投資はかなり低かったから、その失敗から学んで先へ進めた。
この例として本書ではYouTubeを挙げています。
YouTubeは、今では誰もが知る動画共有サイトですが、 立ち上げ当時は全く違うサービスを提供していました。
YouTubeは、当初は「チューンイン、フックアップ」というビデオ出会い系サイトでした。
残念ながらこのアイデアは失敗に終わりますが、その後YouTubeの創設者たちはインターネットに必要なものはビデオの共有できる簡単な手法であることに気が付きます。
これに気づくきっかけとして、当時のジャネット・ジャクソンのスーパーボウルでの「衣装の誤動作」とインド洋の津波があげられています。
どちらも多くのビデオがあったのにもかかわらず、それをホスティングするサイトを見つけるのは難しく、メールで添付して送るにはファイルサイズが大きすぎました。
そこでビデをを共有できるサービスに切り替えることを決意し、その後みなさんご存知の通りに大成功を収めます。
今ではGoogleに買収されて世界最大のビデオコンテンツ共有サイトになっています。
ここで注目すべきポイントは、YouTubeは一度失敗しており、その失敗から学んですぐに方針転換して大成功につなげたということです。
この要因として一つ目のサービスの初期投資が少なかったことが挙げられます。
伝統的な手法では、新たなサービスを立ち上げるためには多額の資金が必要になります。
しかしインターネット時代には、初期投資に費用は多くかかりません。
とくにソフトウェアを開発するのであれば必要は小さく済みます。
重要なことは、失敗してもそこから学んで迅速に方針転換できることです。
つまり、「強さより回復力」とは、失敗を恐れてチャレンジしないことよりも、まずチャレンジし、たとえ失敗してもそこから学んで次につなげていけばいいという考えです。
失敗しても次につなげる回復力が大事であると本書は主張しています。
この背景には、チャレンジすることに必要な初期投資が下がっていることが背景にあります。
激変するこれからの時代には、将来を予想することなんてほぼ不可能です。
したがって、成功する保証はなにもないし、計画を立てることも困難です。
しかしかつてなかった大きな武器があります。
それがまさに新しいことにチャレンジする費用が下がっているということです。
これらのことを考慮すると、新しいアイデアがあればチャレンジして失敗してもそこから学んで次につなげていけばいいという考えに至るわけです。
順を追って考えると、とてもシンプルな結論です。
そして本書では、回復力についても説明しています。
回復力というのは、必ずしも失敗を予想するということではない。自分が次に何がくるのかを予想できないということを予想する、ということであり、その状況に対する一種の認識力に基づいて活動するということだ。
要は、予想できないことが起こりうることを想定しておこうということです。
大事なことは、その予想していなかったことが起こっても、それに怖気つかず、そこから失敗の要因などを学んで、方針転換して次につなげていくことです。
これからの時代は、「安全よりリスク」と同様に「強さより回復力」という原理もより重要になっていくと本書では主張しています。
ということで、8つ目の原理は「強さより回復力」でした。
9.モノよりシステム
最後の原理は「モノよりシステム」です。
これも少しわかりづらいですかね。
本書では、この原理を説明するために、MITメディアラボに所属する神経科学者のエド・ボイデンさんを例に挙げています。
ボイデンさんは、脳に関する研究を複数の分野にまたがって行っており、これまでの研究とは違ったアプローチを採っています。
既存の研究方法は、脳を研究対象のモノとして扱っていました。
ごく最近まで、科学は脳研究に対し、腎臓研究と同じやり方で取り組んできた。言い換えると、研究者たちは脳という器官を研究対象のモノとして扱い、その解剖学、細胞構成、体内の機能などに専門特化して生涯のキャリアとした。
しかしボイデンさんは、脳をシステムとしてとらえて研究しています。
メディアラボの中で合成神経生物学グループと呼ばれる彼らのグループは、脳を名詞よりは動詞として扱うほうが多く、独立した器官よりはむしろ重なりあうシステムの焦点として扱い、そうしたシステムを理解するには、その機能を定義づける変化し続ける刺激群の文脈を考えねばならないとしている。
したがって、ボイデンさんの研究グループには実践を重視する考え方が浸透しています。
ボイデンさんの研究室は、電動工具やはんだ付けの台が、ビーカーやピペットと同居しているそうです。
そしてこの研究グループに所属しているメンバーもとても多様性にあふれています。
メンバーの中には元オーケストラのバイオリン奏者やベンチャー資本家などもいるそうです。
そしてボイデンさんはこれまでにさまざまな発見や偉業を成し遂げます。
その一つが脳の光スイッチの開発です。
これは「光への反応としてニューロンにイオンを出し入れする装置」です。
何のことかさっぱりですよね。
私も無知ですが、がんばって順を追ってご説明します。
ニューロンとは、神経を構成する細胞で、各ニューロンはある特有の刺激を受けると次の細胞にその刺激を伝える作用があります。
一つ一つのニューロンの動きはとてもシンプルですが、これが大量に集まるととても複雑な処理が可能になります。
人間の脳には平均で1000億個のニューロンがあるといわれており、現代のスーパーコンピューターに匹敵するほどの計算能力を持っています。
これがいかにすごいことかをイメージするためにはこの引用が役立ちます。
脳は二・五ペタバイトのデータを保存できる。つまり一九九五年に生産されたすべてのハードディスクの容量を上回るには、たったの一〇人――そしてその人々の灰色物質――さえあればいい。そして確かに人類は脳の22億FLOPSという計算力を実現できるスーパーコンピュータは構築できたけど、まだ四台しかないし、丸ごと倉庫が必要なほどでかく、それぞれが一万世帯分もの電力を消費する。脳はそれよりずっとコンパクトで、暗い電球ほどのエネルギーしか使わない。だから脳の解決はハードプロブレムではない。それは先例どころか比肩するものさえない歴史的な難問だ。
そしてボイデンさんのこの「脳の光スイッチ」が開発によって、このニューロンの働きを視覚的に確認できるようになったのです。
これはとても大きなブレークスルーで、その後の脳研究を加速させました。
しかし、本書がこの例に注目しているのは、この開発そのものではありません。
注目している点は、この開発までに至った経緯とボイデンさんのアプロ―チ方法です。
ボイデンさんは、ひとつの分野に縛られることなく、さまざまな分野について学んでいました。
つまり学術的に細分化された単位ごとに学ぶのではなく、もっと大きな枠の中でそれに関わるさまざまな分野の知識を身につけました。
そして、脳の光スイッチを作るためには、さまざまな学術分野の知識が必要でした。
ボイデンが指摘したように、「脳の光スイッチ」を作るには、分子生物学、遺伝子工学、外科手術、光ファイバー、レーザーを活用する必要がある。標準的な神経学カリキュラムに登場するのはこのうち一つだけだ。
既存の学術的に細分化された分野のみしか学んでいなければ、この開発は不可能でした。
ボイデンさんは、あらゆる分野についての知識があったために、「脳の光スイッチ」の開発に成功したのです。
全体の大きな枠、つまりシステムとして理解することが重要になるのです。
この開発は多くの研究分野に新たな風を吹き込みます。
最も影響を与えたのがナルコレプシーやパーキンソン病、てんかんの研究です。
「脳の光スイッチ」を利用すれば、脳の動きを視覚的に確認することができ、任意のタイミングで脳に刺激を与えることができるため、効率的に研究を進めることができたのです。
「モノよりシステム」という考え方は、それぞれを細分化して考えるのではなく、大きな枠の中で理解するという考え方です。
システムとして、複数の分野にまたがって考えることができれば、新しい発見やイノベーションにつながる可能性は高まり、また、そのような分野は過去に試した人も少ないので競争相手も少ない。
今後は、今までなんのつながりもなかった分野がコラボレーションすることで、インパクトのあるものを生み出すことができると本書は主張しています。
そしてその複数分野をつなげる能力こそが重要になってくるということになります。
各分野のあいだやその向こうの空間は、学術的にはリスクが高くても、競争は少ないことが多いし、有望で風変わりなアプローチを試すにも必要な資源は少なくてすむ。そしていまはあまりうまくつながっていない既存分野間のつながりを開封することで、すさまじいインパクトをもたらせるかもしれない。インターネットと計算やプロトタイピングや製造の費用低減は、研究費用の多くも引き下げた。
このように、これからの時代では、モノとしてとらえるのではなく、システムとしてとらえて、既存の分野後tに区切られた枠組みから抜け出して物事を考えることがより重要になっていきます。
ということで、最後の原理は「モノよりシステム」でした。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
前々回から3回にわたって、2017年7月に発売された伊藤穰一さんの「9 Principles」をご紹介してきました。
これまでにご紹介した九つの原理をあらためて列挙しておきます。
- 権威より創発
- プッシュよりプル
- 地図よりコンパス
- 安全よりリスク
- 従うより不服従
- 理論より実践
- 能力より多様性
- 強さより回復力
- モノよりシステム
どの原理も、激変する予測不可能なこれからの時代を生き抜くためにとても重要な原理です。
ほとんどの原理の背景にあるのが、インターネット時代の到来による既存システムや既存の考え方の崩壊と変化です。
これまでは常識的に思われていたことが、インターネットの到来により崩壊していきました。
その後、インターネット時代にマッチする考え方が段階的にでてきました。
今日のソフトウェア企業はこれらの原理を取り込むことで成功を収めています。
大切なことは、今まで常識だと思っていたことがいつの時代にも通用するものではないということを理解し、その時々にどうすればいいのかを自分で考えられるようにすることです。
そうすれば、今後どのような変化や試練がきても、自らの力で乗り越えていくことができるでしょう。
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